卒業生紹介
京都芸術大学を卒業し、活躍している先輩を紹介します。
しんのすけさん
株式会社MEW Creators 代表取締役 映画感想TikTokクリエイター大学で出会った先生のように、いろんな映画との出会いを届けていく。
―先生から教わった衝撃的におもしろい作品たちが、「映画感想TikTok」の原点。
映画づくりのおもしろさを知った、高校3年生の文化祭。
映画に興味を持ったのは、いつ頃ですか?
- しんのすけ
- 小さい頃から映画が好きだったんです。テレビで放送されていたティムバートン監督の『シザーハンズ』を観て、綺麗な映像だなと思ったのがきっかけで、そこから映画にハマっていきましたね。
映画を観るだけじゃなくて、映画をつくる側に回ったきっかけは?
- しんのすけ
- 高校3年生の時。
高校生でもう?
- しんのすけ
- 僕の通っていた高校がちょっと特殊で。文化祭で自主映画を流すという恒例行事があったんです。
へぇ〜、映画を流すのが恒例行事。
- しんのすけ
- それで「撮りたいです!」と立候補して。機材は持っていなかったので、親戚からビデオカメラを借りて、短編映画をつくりました。
自分から立候補を!
- しんのすけ
- はい。みんなが受験勉強をしている中で、僕はひたすら制作に没頭していました(笑)。
映画制作を経験してみて、どうでしたか?
- しんのすけ
- 撮影方法など、まったく分からないなりにも全力で取り組むうちに「映画づくりが好きだな」と。そこから本格的に映画制作を学ぼうと思うようになりましたね。
大学はどうやって探したんですか?
- しんのすけ
- 「京都 映画」でネット検索したら、ちょうど京都芸術大学で映画学科が新設されることを知ったんです。
そうか。しんのすけさんが映画学科の1期生になるんですね。
- しんのすけ
- 僕自身が映画を学び始めるタイミングで、学科も新しく始まるとことに運命的なものを感じて。それで「ここに行きたい!」と入学を決めました。
新設される学科に入るという不安はなかったですか?
- しんのすけ
- なかったですね。僕はどちらかというと、新しいことにチャレンジすることが好きなので。1期生として、道なき道を開拓していけることにワクワクしていました。
大学で出会った先生が、「映画感想TikTok」のモデルに。
大学に入ってからは、どうでしたか?
- しんのすけ
- 高校生の時は、とにかくユニバ(ユニバーサルスタジオジャパン)に行くことしか考えてなかったです(笑)。
大学に入学する前のことからお聞きしたいのですが?
- しんのすけ
- 映画漬けの日々でしたね。
映画漬け!
- しんのすけ
- はい。高校までは周りに映画好きの人が少なかったんですけど、この学科は映画が好きな人ばかり。友だちとレンタルビデオ店に行って3本ぐらい作品を借りて、朝まで見続けるということを繰り返していましたね。大学の授業で映画を学んだり、実際に映画をつくったりと、いつも映画のことばかり考えていました。
どんな授業が印象に残っていますか?
- しんのすけ
- 特に印象に残っている授業は2つあります。そのうちの1つは、今の映画感想TikTokクリエイターとしての原点にもなっているんです。
原点ですか。
- しんのすけ
- はい。それが映画鑑賞の授業です。先生はドキュメンタリー映画などを手掛けていた映画監督で、僕たちよりも10歳ぐらい年上の方でした。そういう授業の場合、古典的な名作や歴史的に重要なものを観るのかなと思うじゃないですか。
確かに、そのイメージがあります。
- しんのすけ
- でも、その授業は、先生が僕たちと同じぐらいの年齢の時に観ていた90年〜00年代の映画を、名作からアダルトビデオまで、たくさん観せてくれたんです(笑)。これが衝撃的におもしろかった。
衝撃的に!
- しんのすけ
- しかも、この授業で先生から教えてもらった映画は、知らないものばかり。その作品たちが「映画」の幅や自由度を広げてくれました。
知らない作品にたくさんふれたことで、視野が広がっていったんですね。
- しんのすけ
- あと、先生が“ちょっと年上のお兄さん的”な雰囲気だったのもとてもよくて。今、僕がTikTokでやっている“おすすめの映画を語ってくれる人”のイメージは、この先生なんです。それぐらい僕にとって大きな存在に、1年生のときに出会えたのは幸運でした。
すごく良い出会いだったんですね。
- しんのすけ
- 2つ目は、北小路 隆志先生(映画評論家)による映画評論の授業です。これは、それぞれが選んだ映画をみんなで観て、それをなぜ選んだのかプレゼンして、ディベートするというもの。映画について語ることのおもしろさや、難しさを学びながら、「映画をつくる以外にも映画のおもしろさを発信するという方法もあるんだ」と気づきました。
つくるだけじゃなく、発信することも、映画の魅力を届けることにつながるんですね。
映像の現場で、ひたすら作品をつくる日々。
- しんのすけ
- 卒業後は「映画をつくる現場にとにかく行きたい!」と思っていました。就職先について悩んでいたときに、当時の学科長から「京都撮影所で助監督が足りていない」と教えていただいたんです。
ちょうどいいタイミングで募集があったんですね。
- しんのすけ
- それで撮影所に就職しました。2013年には東京に活動拠点を移して、映像制作会社でCMやMVなどの制作にどっぷり浸かった生活を送っていましたね。
作品をつくり続けていたんですね。
- しんのすけ
- 2018年に独立してからも映像制作に携わっていました。そしてある日、知り合いから専門学校の講師をしないかと誘ってもらったんです。
つくるだけじゃなく、教える仕事も担当することに。
- しんのすけ
- そしてそれが、TikTokを始める大きな転機でもあったんです。
30日間で、TikTokの投稿をバズらせろ。
転機というのは?
- しんのすけ
- 講師を始めた2019年の夏休みに、学生たちに課題を与えるだけじゃなくて、自分でも何かに挑戦しようと思うようになったんです。それで「30日間でTikTokの投稿をバズらせる」というミッションを自分に課して、取り組むようになったんです。
それは大変そう。
- しんのすけ
- 僕が始めた頃のTikTokは、完全に女子高生が踊るアプリだったんです。その中で自分がTikTokをやるとなったときに、まず、踊るわけにはいかねぇなと(笑)。僕にできることはなんだろうと考えたのですが、そもそも選択肢がなかったんです。
選択肢がない。
- しんのすけ
- 僕は映像をつくってきたので「綺麗な映像をつくるか」「機材を紹介するか」という二択だったんです。でも、綺麗な映像をつくっても、機材を紹介しても、引くほどバズらない。あ、俺にはやっぱり何もないのかって思ったときに、そういえば、自分はめちゃくちゃ映画が好きだと。それで映画を紹介してみることにしたんです。
いろいろ試してみて、映画紹介に行き着いたんですね。
- しんのすけ
- 当時話題になっていた『ONE PIECE STAMPEDE(ワンピース スタンピード)』を題材として動画を制作しました。多くの方が「この作品はおもしろい」「最高傑作だ!」という評価をしていたんですけれど、20年以上ONE PIECEが好きで作品を見続けてきた僕からすると、全然おもしろいと思えなくて(笑)。
世間とのギャップがあった。
- しんのすけ
- いろんなキャラクターが登場してバトルするシーンはめっちゃ熱くて、僕も興奮したんですが、敵役のバックボーンが見えにくくて、ストーリーに入り込めなかったんです。なので「熱さ5億点、面白さ3点」と(笑)。
反響はいかがでしたか?
- しんのすけ
- 14,800いいねを得て、バズることができました!
おぉ!
- しんのすけ
- でも、コメント欄がとにかく荒れて(笑)。
どんなコメントがあったんですか?
- しんのすけ
- 「作品を悪く言わない方がいいんじゃないか」「じゃあつくってみろ」などの意見ですね。ただ、僕はそういうのに違和感があって。
違和感。
- しんのすけ
- もっと正直に意見を言うコンテンツがあってもいいと思っているんです。実際、コメントの中にも「みんながおもしろいと言いすぎて、自分の感覚がズレているのかと思っていた」「おもしろくないと言ってくれてよかった」と、共感してくれる声もありました。
否定的な意見だけじゃなくて、共感もあったんですね。
- しんのすけ
- 改めて気づいたのは、映画が好きな人が集まって、いろんな意見を話せる場所が必要だということです。その気づきは、今もTikTokクリエイターとして活動するうえでの、大きな原動力になっています。
映画を発信することで、つくる人と観る人をつなぐ。
現在は、どんな風に活動しているんですか?
- しんのすけ
- 1〜2日に1回、新しい動画を発信しています。日々活動する中で、自分にしかできないことが見えてきて。
自分にしかできないこと?
- しんのすけ
- はい。つくる人と観る人をつなぐ映画情報を発信するということです。
つくる人と観る人をつなぐ?
- しんのすけ
- 僕がTikTokを始めた時期は、コロナ禍で映画の公開日が延期されたり、映画館が閉館したりすることもありました。しかも当時は、その事実だけが拡散されていて、裏側で何が起きているのか知ることができなかったんです。
そもそも知る手段がなかった。
- しんのすけ
- そうです。まだまだ映画情報を伝えるメディアっていうのは、限られているのが現状で。じゃあどうしたら、世の中の人に「映画の情報をもっと知りたい」とか「映画館に映画を観に行こう」って思ってもらえるのかを考えたときに、TikTokというメディアを使って情報を発信することに大きな価値があると思ったんです。
確かに、多くの人に見てもらえますね。
- しんのすけ
- そして、実際に映画制作に長く関わってきた経験を活かして、映画レビューだけじゃなくて、現場の裏側を伝える動画や、キャスト・監督へのインタビュー動画などを制作することで、つくる人と観る人の両方の視点に立って情報を伝えるという、僕にしかできない発信ができるのではないかと。
いろんな映画との“思わぬ出会い”を、つくり続ける。
今後のことについても何かあれば教えていただけますか?
- しんのすけ
- TikTokは、ものすごく可能性を秘めているメディアだと思っていて。
可能性。
- しんのすけ
- 動画系メディアの場合、例えばYouTubeは“検索型”なので、自分で観たい動画を検索しますが、TikTokの場合は、自分で選んでいない動画が勝手に流れてくる“ランダム型”になっています。だから、観る人にとってまったく興味のないものもTikTokの独自のアルゴリズムで表示されます。
全然違いますね。
- しんのすけ
- こういう“思わぬ出会い”ってすごく大切で、それこそがTikTokのおもしろさだと思うんです。
思わぬ出会い。
- しんのすけ
- かつて、僕らがレンタルビデオ店に通って体験したように、予期せぬ出会いによって、いろんなカルチャーに触れることができますし、もしかすると、あるひとつの映画作品との出会いが、その先の人生や、社会を動かすきっかけにもなるかもしれません。
誰かの人生や、社会までも変えていく。
- しんのすけ
- はい。その可能性に満ち溢れているからこそ、今後も、いろんな映画と出会える場をつくっていきたいですね。
最後に、みなさんにメッセージをいただけますか?
- しんのすけ
- 好きなことを見つけるのは難しいかもしれないけれど、僕は嫌いなことを消していった人間なんです。例えば、スーツを着るのは嫌だとか。
嫌いなことを消す。
- しんのすけ
- そうやって、いろんな選択肢を潰していった結果「映画しかない!」という結論に辿り着きました。嫌いなことをとことん排除して残ったものが、きっとあなたの好きなことだと思うので、もし、進路に迷っているなら、消去法で考えながら決めていってもいいのかなと思います。
貴重なお話をありがとうございました。これからも配信を楽しみにしています!
- 卒業年度・学科
- 2011年
映画学科 卒業
- 出身高校
- 京都市立塔南高校
- プロフィール
- フォロワー数68万人を誇る映画感想TikTokクリエイター。東映京都撮影所にて時代劇ドラマ『水戸黄門』の助監督として業界入り。2014年に活動拠点を東京に移し、映画『HiGH &LOW』シリーズなどの助監督を経て2018年に独立。映画制作者としての視点を活かした映画レビュー動画を発信し、新たな映画との出会いを生み出している。
作品