卒業生紹介

京都芸術大学を卒業し、
活躍している先輩を紹介します。
卒業生インタビュー

こはらなつさん

イラストレーター

私の原点は、人を喜ばせること。
−保育士からイラストレーターへの転身。
どんなに迷っても、ワクワクする方へ進みたい。

人が喜んでくれる、という原体験。

こはらさんが大学に入るまで、どういう子ども時代を過ごしてきたのか、聞かせてもらえますか?

こはら
私は小さいときから絵を描くことが好きで、それを見た家族や先生たちから、まるっと肯定してもらえた記憶があります。自分が描いたもので誰かが喜んでくれることがうれしくて、また絵を描いて、ということを繰り返していました。

人に喜んでもらうという意識が、もうその頃から?

こはら
私は一人っ子だったのですが、年下のいとこたちがいて、お盆や年始に親戚が集まるとき、ワークショップを企画するみたいに、いろんな遊びを考えていました。私がいちばん年上なので、ちょっとでも楽しんでもらえたらいいなという感覚で、「紙皿を使ってこういうことやってみよう、つくってみよう」と提案して、いとこたちが喜んでくれるのがうれしかったですね。
小学校では、学級新聞をつくるクラブに入って、誌面をどう工夫するか自分たちで考えていました。

絵を描いたり、人と一緒に何かをつくって楽しんだり、喜んでもらったりという経験をしてきたのですね。

こはら
中学では苦手だった球技にあえて挑戦してソフトボール部の練習に打ち込みながらも、絵を描くことはずっと好きでした。たとえば、テスト勉強を楽しくできないかなと思って、イラストを添えたテスト対策用のプリントを自分でつくって、「ほしい」って言ってくれる人に配ったりして。自分のイラストを通して周りの人に喜んでもらいたいという気持ちはずっとありました。

絵を描くのも、子どもと関わるのも、どちらもできる場所に出会えた。

大学はどのように選んだのですか?

こはら
高校では「書画部」という部に入って、絵と字を織り交ぜた作品をつくっていました。でも、美大に行って芸術の道を極めようというイメージは自分のなかにあまり無かったんです。一方で、子どもと関わるのも好きだったので、保育を学ぶことも選択肢にはあったものの、保育だけを学ぶ学校に入るイメージも湧かなくて……。進路についてなかなか自分の気持ちと折り合いをつけるのが難しいなと感じていた頃、大学について調べる課題があって、そのときに京都芸術大学の「こども芸術学科」を知って「絶対ここや!」って。

学科の存在を知ってすぐに、「ここだ!」と?

こはら
絵を描くのも、子どもと関わることも好きで、どちらかだけを選ぶのはなんだか違うなと思っていて。その2つが合わさった学科だと知って、その時点でもう絶対ここだなと。それから実際にオープンキャンパスにも行って先生方と話したり、作品を見せてもらったりするうちに確信はさらに強まりました。

出会うべくして出会ったという感じですね!

こはら
そうですね。こども芸術学科では、子どもたちと一緒に自分も素材に触れたり、何かをつくったりして、遊びを通して“一緒に感じる”ことを大事にしているんだとわかって。それはきっと私自身もワクワクするし、私がワクワクできたら関わる子どもたちも楽しんでもらえるんじゃないかなと思って入学を決めました。

「今」を存分に味わうこと、自分のなかの「子ども心」と向き合うこと。

こども芸術学科では、どんな毎日を過ごしていましたか?

こはら
私は「今、ここに居る」ということを存分に味わいたいなと思っていて、授業中もたくさん写真を撮っていました。素材に触れて何かをつくっている場面や、友だちのいろんな表情から「今、これが素敵だ」というものを感じ取って、残しておきたいなって。そんな想いがすごくあって、いつもカメラを持っていましたね。

「今」を、大事なものとして味わおうとしていたのですね。

こはら
ふだんの活動を記録した写真たちは、自分や友だちのポートフォリオをまとめる時にも役立ってくれました。授業そのものが本当に面白くて、普通ならあり得ないような量の木片を集めてきて、「これで何かしよう。さぁどうする?」みたいなこともあって。

たしかに面白そうです。

こはら
1人でやろうと思っても到底できないことを、いろんな素材で経験させてもらいました。たとえば1からスライムをつくろうっていう授業でも、他に何を混ぜたら面白いかをそれぞれ考えて、自分で「これ混ぜたらどうかな?」と試行錯誤するのも面白いし、他の友だちがしていることを見るのもすごく楽しかったんです。

実験的に楽しみながらやっていたんですね。

こはら
その感覚のなかには、子どもたちが初めて絵の具や素材に触れたときのワクワク感と、「なんだこれ?」っていう拒否感みたいな感覚も入り交じっています。もともと自分には“子ども心”がある方だと思っていたけれど、さらに子どもの心に近づけた気がします。

子ども心に近づくことで、子どもとの関わり方もまた変わっていきそうです。

こはら
たとえば、自分の子ども時代にも、「大人にこういう風に言われてあまりいい思いをしなかった」という記憶があって、言った側の大人に悪気があるわけじゃなくても、その言葉がきっかけで「絵を描くのやだな」という気持ちになってしまう。そういう声かけを受ける前の子どもたちに触れて、一緒にワクワクできたらいいなと思っています。

こども芸術学科での授業風景

子どもも、大人も、絵の具まみれの保育園。

卒業後のことは、いつぐらいから考え始めたんですか?

こはら
大学を決めるときも絵か保育か、どちらかを選ぶことが難しかったように、就職先のイメージがなかなか持てなかった私は、「就活」という期間を活かしていろんな企業を見学させてもらいました。そんな頃、大学の『学生スカウト制度』がきっかけで、「こどもなーと」という保育園を運営している会社から声をかけていただいたんです。
■ 学生スカウト制度
Web上で学生の「自己PR文」と「作品」を公開し、企業の方々が気になる学生をスカウトできる京都芸術大学独自のしくみ。
こはら
園で実際の活動を見せてもらったとき、子どもたちも保育者も一緒に、服まで絵の具まみれになって色を混ぜたり塗ったりしていて。大人がとても楽しそうだったんですよね。

子どもを見守る感じじゃなくて、保育士さんも一緒に絵の具まみれに!

こはら
大人が楽しそうなのを見て、子どもたちもさらに楽しんでいる様子が伝わってきたので、「このなかに入りたいな」と思いました。

素敵ですね。

こはら
大学で保育士の免許も取っていた私は、「保育士 兼 アトリエリスタ」として、こどもなーと正雀保育園で働くことになりました。アトリエリスタは、たとえば他の保育者から「こういう遊びをしたいんだけど、素材は何がいい?」と聞かれた時にいくつかの素材を提案し、子どもたちの遊びのなかにさまざまな表現活動を取り入れて、遊びを通して一緒に生きるための知恵や知識を育んでいく仕事です。

こども芸術学科でしてきたことと、アトリエリスタという仕事はすごく結びつきがありそうですね。

こはら
はい。こども芸術学科はいろんな素材に触れて、一つのものでもいろんな見方や楽しみ方があるという視点を養うことができる環境でした。大学時代に自分自身がワクワクしながら体験したことを、いろんな場面で生かすことができたなと思います。

毎日1投稿しよう。自分で決めたら、チャンスが広がった。

こはらさんは保育士 兼 アトリエリスタという日本ではまだ珍しい仕事を経験してから、イラストレーターとして独立されています。どんなことがきっかけだったのでしょうか?

こはら
大学在学中からLINEスタンプや絵文字をつくっていたんです。今となっては合わせて50種類ぐらい。「やってみたい」っていう好奇心と、自分自身が使いたいっていう気持ちや、身近な家族や友だちに使ってもらって、喜んでもらいたいっていう想いから始まりました。

自分で何かをつくる、ということもずっと続けていたんですね。

こはら
ゆくゆくはイラストやグッズをお店に置いてもらえたらとうれしいなという夢ができて。もっと自分のイラストを知ってもらうためには、SNSで発信しなきゃと思っていたものの、それがなかなかできずにいました。はじめは仕事をしているから「忙しくてできない」と思い込んでいて、でも、コロナ禍で自宅にいる時間がふえた時期に気がつけばゲームしている自分がいて。「時間があるけど、してないやん」って。

これまでできなかったのは、忙しさのせいではなかったと。

こはら
「自分が決めなきゃいけないんだ」と気づきました。そこから、「毎日1投稿しよう」と決めて、まずはInstagramで発信を始めました。いろんな人に見てもらうためにいろいろ試行錯誤しているなかで「グッズとか出さないんですか?」という声をいただけるようになって。

発信すると反響があったんですね!

こはら
私自身もやってみたいと思っていたけど具体的な形にできなかったことを、発信を見てくださった方たちが求めてくれて、もっと力を注ぎたいと思うようになりました。

保育園の仕事も続けながら?

こはら
はじめは保育園で働きながらグッズをつくってイベントにも出ていたのですが、だんだん両立が難しくなり、職場と相談して、まずはパートタイムに切り替えてイラストにかける時間を増やしてみようということになりました。

職場の方も理解して応援してくださったのですね。

こはら
それからさらにイベント出展やポップアップストアの活動が広がり、「これは思い切るしかない」と思って、独立を決意しました。職場のみなさんは「どうなるかわかんないけど、もし無理でも戻ってきたらいいよ」と背中を押してくれ、2023年4月からフリーランスのイラストレーターとして一歩を踏み出しました。

「心がほわっとする」瞬間を、一人でも多くの人に届けたい。

独立して、どんな変化がありましたか?

こはら
「時間を自由に使えるからこそ、自分で管理しないといけないんだ」とわかってきましたし、その時間を使ってイベント出展や発信をさらに増やしています。いろんな人に会う機会も増えて、私の発信を見てくださっている方と直接お話することができるのもうれしい瞬間です。あとは『Voicy』というプラットフォームで音声配信も始めました。

音声でも発信を!

こはら
やっぱり声だと、自分がそのまま伝わる感覚があります。Voicyで私のことを知ってくださる方や、イラストだけでなく私の人柄込みで興味を持ってくださる方もいて、そうした方がイベントに来てくださったときに、私のことをもう既に知ってくれている感覚がすごくうれしくて。お互いに「ようやく会えましたね!」みたいな場面が生まれています。

うれしいですね。こはらさんのことを知ったうえで、イベントに足を運んでくださる方がいるって。

こはら
そういう風になるのも、音声配信ならではだと思っていて、私だからできる、私ならではの発信ができてきているのかなと思っています。Voicyは毎日続けていて、「この時間に収録する」と日々のルーティーンに組み込むことで、録らないっていう選択肢がないようにしています。

やっぱり自分で決めることが大事なんですね。独立してよかったと手応えを感じる場面は、どんなときですか?

こはら
私のオリジナルキャラクターである、『もちこともちお』のアイテムやイラストが日常にあることで「心がほわっとします」という言葉をいただいたり、イベントで直接お会いした方から、うれしい言葉をたくさんいただいたりしています。イベントに行けないという方のためにオンラインショップも期間限定でオープンしていて、たくさんの人の日常に私のイラストが届き始めたことが、本当にうれしいなと日々感じています。

ワクワクしながら描く。まずは、自分が楽しむこと。

イラストを描くときに、大事にしていることはありますか?

こはら
キャラクターを描くとき、「かわいいな」って思いながら描くことです。たとえば動物のイラストなら「この動物のなかで私が好きなところはここだな」「このフォルムがかわいいな」と思って描いています。「疲れてるし本当は描きたくないけど」なんて気持ちでは描かないようにしています。

こども芸術学科の頃から「自分がまずワクワクする」という姿勢を貫いているんですね。

こはら
グッズ展開を考えるときも、私自身が本当に「ほしい」と思うか、高校生だった頃の自分が見ても「いいな」と思うかという視点で考えていて、自分自身がワクワクする感覚をすごく大事にしています。

だから、こはらさんの描くものはたくさんの人に届くのでしょうね。これからの目標はありますか?

こはら
流れに身を任せるというか。もちろん自分で何もしないわけじゃなくて、自分自身が目の前のことにワクワクしながら向き合うなかで、「これやってみない?」と声をかけていただいたときに動ける余白を持ちたいですね。今自分で想像もしていないような、ワクワクすることに挑戦していきたいです。

これからのご活躍がほんとうに楽しみです。素敵なお話を、ありがとうございました!

 

取材・記事|久岡 崇裕(株式会社parks)

卒業年度・学科
2019年
こども芸術学科 卒業
出身高校
大阪府立今宮高校
プロフィール
こどもなーと正雀保育園で 4 年間、保育士兼アトリエリスタを務め、2023 年春に「イラストレーター こはらなつ」として独立。ラフォーレやパルコ、ハンズなどの POPUP・展示が好評を博し、2024 年 3 月ルクアイーレのニュースタアギャラリー大阪にて『こはらなつ個展』を開催。キャラクター『もちこともちお』のLINEスタンプやグッズが人気を呼ぶとともに、Instagramやnote、音声メディアのVoicyなどで日々発信を続け、活動の幅を広げている。

作品

picture

ニュースタアギャラリー大阪で開催された初個展「わたしともちこともちお」会場風景

この先輩の卒業学科は・・・ こども芸術学科

  1. Home
  2. 学生生活・就職
  3. 卒業生紹介
  4. 卒業生紹介(こはらなつさん)

毎日更新! 公式SNS

公式SNS紹介