卒業生紹介

京都芸術大学を卒業し、
活躍している先輩を紹介します。
卒業生インタビュー

土居志央梨さん 上川周作さん

俳優

答えのない“人間”を演じる、俳優という職業。
こんなに難しくて、面白いことはない。

サッカーとクラッシックバレエ。
それぞれ違う道を辿り、悩んだ末に踏み出した、俳優への一歩。

お二人は、なぜ俳優という仕事に興味を持ったのでしょうか。

上川
僕は小学校から高校までサッカー一筋だったのですが、その道でプロとして生きていくのは厳しいと感じていました。それでスポーツの指導に関わることのできる体育教師になろうかなと。

体育教師に。

上川
でも、頭の片隅に「人前で表現をすることが楽しかったな」という記憶があったんです。大分の祖父が舞台の演出を務めていて、ろう者の方たちと一緒に1年かけて舞台をつくりあげていくのですが、僕も舞台のうえに立たせてもらうことができたんです。その日、芝居そのものの内容よりも、公演が終わってから舞台裏でみんなが1年間がんばってきた喜びを分かち合っている光景がすごく感動的で、今も鮮明に覚えています。その記憶が大きかったですね。

子どもの頃の原体験が、心にずっと残っていたんですね。

上川
教師か、俳優か。迷って、しばらく誰にも打ち明けられずに進路が決まりきらないモヤモヤを抱えていたのですが、その気持ちを初めて学校の先生に話してみたら、めちゃくちゃ応援してくれて。おすすめの大学を調べたりしてくれました。その後、両親にも話したら背中を押してくれ、京都芸術大学のオープンキャンパスに行くことにしました。それが、すっごく楽しくて。

どんな風に楽しかったのか覚えていますか?

上川
映画学科のブースで、林海象先生が手裏剣を投げたりしていて。面白い人だなと(笑)

オープンキャンパスで手裏剣を(笑)

上川
学生と先生との距離もすごく近くて、一緒に楽しんでくれそうな方たちばかりだなと思いました。入学したら絶対楽しそうだな、と。オープンキャンパスが決め手になって、迷った末に映画学科に進む道を選びました。

ここに入学したら絶対楽しいと思えるくらい、キャンパスで出会った人たちが魅力的だったんですね。
土居さんは、どんなきっかけで俳優に興味を持たれたのでしょう?

土居
私は3才の頃から15年間、クラシックバレエを続けてきて、将来はこの道でプロになりたいと思っていました。でも、あまりにもずっとバレエのことしかしていなかったので、このままバレエしか知らないまま終わってしまうかもしれない、もっと広い世界を見てみたい、という気持ちが湧き起こってきて。それを思ったのが高校3年生の夏で、必死に今からでも受けられる大学を探して、いろいろパンフレットを取り寄せた中で、一番きれいだったのが京都芸術大学だったんです(笑)

パンフレットが一番きれいだった(笑)

土居
オープンキャンパスに行った日、たまたま「エチュード(即興演劇)のワークショップを受けませんか?」と声をかけてもらって。もともとは、ダンスコース(現:演技・演出コース)を志望する予定だったんです。でも、即興で演じてみたら、周りの人もいっぱい笑ってくれて。そのときは、「楽しかったなぁ」という、ふわっとした感情だったんですけど、家に帰ってからじわじわと「めちゃくちゃ楽しかったな」と思ってきて(笑)

人前で演じる、ということを、はじめから楽しめたんですか?

土居
はい。ふり返ってみると、バレエでも“踊る”というより、“何かの役になりきる”ということをずっと経験してきました。クラシックバレエの演目では、妖精だったり、どこかの国のお姫様だったり、いろいろな役になりきってストーリーを表現していきます。

何かの役を演じるという意味では、バレエとお芝居は共通しているのですね。

土居
小さい頃から、そういうのが楽しかったんだと思います。なので、切り替えるというより、自然と入っていけた感覚があります。根本的にはやっぱり、人前で何かを演じることが好きなんですよね。

入学してすぐ、同じ舞台に出演。
オーディションに一度落ちても、掴み取った役。

お二人は、それぞれ高校で進路に悩んだりもしながら、同じ年に映画学科に入学されています。

土居
そうですね。周作とは初めて出演した作品も一緒で。入学してすぐ、1年生の5月に同じ舞台に立ちました。
上川
土居ちゃんは主演だったけど、僕はオーディションに落ちたんです。でも、稽古場付きとして稽古に足しげく通っていたら、もともと無い役をもらいました。

すごい!一度オーディションに落ちても諦めず、役を掴み取ったんですね!

土居
そうだったね。周作は、爪痕残すために何でもやってたよね(笑)
上川
台詞は、「イエッサーボス」っていう、ひと言だけだったんです。でもなんとか目立ちたかったんでしょうね。なので、誰からの入れ知恵か分からないんですけど、ドーランで腹筋とか描いてましたね(笑)
土居
そうそう(笑)
上川
そのとき、主演の土居ちゃんを見ながら、同い年なのに、なんでこんなに台詞を覚えられるんだろう?演技ができるんだろう?って思っていましたね。同じスタートなのにって(笑)

入学してわずか1,2ヵ月で、土居さんは堂々と主役を演じていたんですか?

土居
舞台という場所はバレエと同じだったので、そんなにやっていることは変わらない感覚がありましたね。バレエをやっていた頃も、先生に「台詞を話しているつもりで演じなさい」と言われてもいたので。「やっと台詞を声に出して話せる!」という感じでした(笑)。とにかく毎日楽しかったなという記憶しかないですね。芝居にのめり込んでいきました。

台本を読み解き、ひと言の台詞の解釈を巡って、みんなで夜通し語り合う。

上川さんと土居さんは、そこから多くの作品で共演されていますね。

土居
映画は撮影までの準備にも時間がかかるので、俳優たちは意外と時間ができるんです。だから、自分たちで演じたい作品を見つけて一緒にいろんな舞台をやっていましたね。たとえば、松尾スズキさんの『マシーン日記』という戯曲も思い出深い作品のひとつです。
上川
そのときは僕が主演だったんですけど、本当に何も分からなくて。ずっと先輩にダメ出しされてました。もう、毎日へこみ過ぎて(笑)
土居
本当に、この演目は大学生にとっては難しいんですよ。夜な夜な、みんなでひと言の台詞の解釈を巡って語り合うとか、ザ・大学生みたいなこともしてました。必死に取り組んでいましたね。『マシーン日記』ってすごくえぐみがあるけど人間味があって、美しい。それを18歳の自分たちが落とし込んでいたって、相当だったなって(笑)
上川
今でも覚えているのは、土居ちゃんが「楽しもう」って励ましてくれたことですね。たぶん、舞台に立てるような顔じゃなかったんだろうなと思います(笑)
土居
「周作が元気じゃないとだめだ!」ってみんなで励まし合いながら取り組んでましたね。でも、周作のすごいところは、そのときから「大人計画に入りたい!」って言っていたんですよ。それを実現してるのが本当にすごいと思う。
上川
『マシーン日記』がきっかけで大人計画が好きになって、それ以来、深夜バスに揺られて東京まで、すべての演目を観に行ってました。

俳優は、作品の一部。
いろんな人の力が集まって、映画ができていく。

上川さんは、学生時代に演じた作品をきっかけに大人計画に所属されたのですね。土居さんの中では、転機になったような作品はありますか?

土居
『二人ノ世界』という主演を務めた映画ですね。北白川派というプロの方と一緒に取り組む大学のプロジェクトの一環で制作されたものです。「映画と友だちになれた」という感覚が生まれた、特別な経験でしたね。体力も、気力も、生命力をすべて注ぎ込んだ作品だったので、大学生のときに経験できてよかったなと。

映像の世界には、舞台とはまた違う学びがありそうです。

土居
映像と舞台は似ているようで、少し違うかなと思います。映像はラストシーンから撮ることもあるし、その瞬間瞬間にどれだけのめり込めるかが問われるなと思いました。何より俳優は“作品の一部”だなって。いろんな方々の力が少しずつ集まって、作品ってできるんだなって。そういうことを学んだ作品でした。

一緒に作品をつくる仲間たちの、存在の大きさを感じます。

上川
大学時代に、土居ちゃんのように、支え合って励まし合える仲間ができたことは大きいですね。僕にとって、この大学に行ったから得られた財産だなと思います。
土居
私も同じですね。東京にひとりで来ていたら、もしかしたらもう帰ってたんじゃないかなって思います。映画学科出身のみんなと現場で会えることがうれしくて。今撮影している連続テレビ小説『虎に翼』の現場でもそれを感じています。「あなたも京都から来たのね!」って。(笑)でもさすがに、周作と現場で会ったときは、なんか笑っちゃいました。

久しぶりに仕事の現場で会ったときは、どんな感覚でしたか?

上川
うれしいし楽しいっていう気持ちもありながら。学生の頃から悩みながら、ただがむしゃらに走ってきた20代があって、連続テレビ小説という現場で土居ちゃんと再会できて。「これまでやってきたことは間違ってなかったな」って、報われたような気持ちもありました。

20代もずっと悩みながら、演技と向き合ってきたのですね。

上川
俳優業って終わりが無いんですよ。自分もまだまだこれからなんですけど、演技ってやり方に正解がない分、今のやり方を信じてもいいのかなって。時を経て、仲間たちと共演できることがすごく感慨深く感じますね。

自分の役のことだけを考えるのではなく、みんなのエネルギーをもらいながら作品をつくる。

お互いに、相手のどういうところに、俳優としての魅力を感じますか?

上川
ひと言で表すのは難しいですけど、やっぱり土居ちゃんが現場に居ると、安心するなって思います。大きな器になってくれるような。自分がいろんな演技を試しても、受け止めてくれる存在ですね。たぶん土居ちゃんの心が広いんだと思います(笑)。共演していると自分の芝居の幅も広がるし、成長できるなって思います。土居ちゃんとコントとかもしたんですよ。
土居
ほんとに、いろいろしてきたよね(笑)。
上川
どんな俳優さんにとっても安心感のある存在なんじゃないかなって思います。

土居さんから見て、上川さんはどんな俳優ですか?

土居
大学のときから危なっかしい感じは変わってないし、でもそれが、そのまま上川周作という俳優の魅力になっているなと思います。周作は、はまったときの破壊力がすごくて。私には絶対できないようなアプローチでお芝居してくるんですよね。

上川さんと土居さんは、まったくタイプの違う俳優なんですね。

土居
周作がいたら現場がどうなるか分からない、という面白さがあります。卒業から10年近く経って、いろんな演目を経験してバランスが取れてきたのかなって思いながらも、根本にある繊細で危うい魅力を、ずっとなくさないでほしいですね。

お二人は、これから俳優として、どんな風に歩んでいきたいですか?

土居
俳優としてのキャリアをスタートしたばかりの頃は、「何か爪痕を残さないと」と焦燥感に駆られていました。でも今は、あんまり格好をつけずリラックスした気持ちでみんなの顔を見ながら仕事をした方がいいなと思うようになって。共演者やスタッフの人の顔を見て、「この人元気かな?」とか、その人の気持ちも感じ取りながら、みんなのエネルギーをちゃんともらいながら、演技をやれた方が、もっといい作品がつくれるんじゃないかなって最近は思います。

みんなのエネルギーをもらいながら作品をつくる。

土居
俳優業って、すごく難しいんですよね。演技って本当に答えがないし。“人間”を演じること、これほど難しいことないなってやっぱり思うんですよ。だから1人の頭でがんじがらめに考えても生まれるものってすごく少ないなと感じていて。現場にいるいろんな人力を借りながら、みんなで助け合いながら、何か一つのキャラクターをつくっていく。それをまとめて大きなストーリーにしていくっていう過程を、今は楽しみたいなと思っています。

上川さんはどうですか?

上川
僕も事務所に入ってはじめの頃は、どうすれば自分が目立てるか、そのためにどんなキャラクターをつくるのか、とか、自分の役のことばかり考えていましたね。自分の見え方、見せ方を追求する。芝居がうまくなりたい、その一心でした。でも最近は、この物語は何を伝えたいんだろう、とか、主人公の目線でみたときに自分の役ってどう見えるんだろう、と作品全体を見通したうえで自分の役を考えるようになりましたね。

俯瞰してご自身の役を捉えるようになったと。

上川
とはいえ、自分の芝居のパワーは落としたくないんです。ただ、あまり自分の中で役を固め過ぎずに作品のテーマを考えたうえで芝居をするようになった気はします。走りきるためには、その視野の狭さ、というか、のめり込む経験も必要だったとは思うのですが。今はそのエネルギーを作品全体に向けたいな、という感覚があります。

決断する。掴みに行く。
その先に楽しさがある。

俳優業には本当に終わりがないんだなと、お二人の話を聞いて改めて感じます。
これから大学に入るみなさんに、どんなことを伝えたいですか?

上川
こうして、12年間芝居を続けているっていうことが僕の今の財産だと思っています。とにかく継続しているっていうことが。もちろん、続けることが絶対いいっていう価値観ばかりではないと思うのですが、大学に入ってからの4年間で、自分が「楽しくて続けられるな」ということを、見つけてほしいなと思います。僕にとっては、それがたまたま俳優業でした。大学で出会えたこの仕事が、僕の人生を豊かにしてくれていると思います。

大学で過ごした時間、経験が今につながっているんですね。

上川
はい。それは大学で仲間たちや先生方に、楽しさを教えていただいたからだと思います。みなさんにも、貪欲に何か掴みに行って見つけてほしいなと思います。

土居さんは、バレエの道から転向して演技の道へ進みましたよね。
その頃を振り返って、高校生のみなさんに伝えたいことはありますか?

土居
私は15年間バレエを続けて、いろんな人にバレリーナになるバレリーナになるって宣言していたのに、突然道を変えて映画学科に行くっていう決断をしました。「何でやめちゃうの?」と散々周りからも心配されたり、自分でも本当にこれでいいんだろうかって、毎日悩んでいました。

悩みに悩んだ決断だったんですね。

土居
何が正解なのか全くわからないし、悩みまくっていた中で、決断したんです。とにかく何か一度決断をしてみて、“その先”だと思うんですよね。楽しいって感じられるようになるのは。悩んでる最中に、何が自分は好きなんだろう、何にわくわくするんだろうって考えても、私はもう全然わからなかったんですよね。心が動かなくなっていた気がします。だから、まず1回決めて、一生懸命やってみる。そこからゆっくり考えるのでも、私は全く遅くないと思うんです。

決断をしてみる、という決断をして、まずやってみると。

土居
正直私もこの先何があるかわからないし、もしかしたらどこかで俳優楽しくないやって思ってやめちゃうこともあるかもしれない。でもそれはそれでいいやって思っているので。人生、いつでも方向転換できるから1回決めたことが人生を決めるわけじゃないっていう気持ちで決めてみたらいいのかなと思います。

確かに、一度決めるともう違う道を選べない、失敗したくない、と思ってしまう人も多いかもしれません。

土居
好きなこと、楽しいことがある人は、全力でそれを追いかけたらいいと思いますし。楽しく、気軽に、生きていきましょうって伝えたいです。

お二人とも、本当に素敵な話をありがとうございました。

 

取材・記事|久岡 崇裕(株式会社parks)

 

 

卒業年度・学科
2015年
映画学科 卒業
出身高校
(土居さん) 大阪府 四天王寺高校出身 / (上川さん) 広島県 瀬戸内高校
プロフィール
同級生として映画学科で学び、ともに大学1年生の頃から数々の作品に出演。土居さんは在学中に受けたオーディションで林海象監督の『彌勒』で映画デビュー、藤本啓太監督『二人ノ世界』ではヒロイン役に抜擢される。上川さんは、連続テレビ小説『まんぷく』で“ナギくん”(名木純也)役を演じ話題に。大ヒットとなった映画『あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら。』にも出演。2人は2024年放送の連続テレビ小説『虎に翼』でも共演を果たす。
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