卒業生紹介
京都芸術大学を卒業し、活躍している先輩を紹介します。
山本真梨菜さん
シャープ株式会社 新規ヘルスケアPJチーム何もなかった私だから、何でもできる。
“誰かの心を動かす”という企画の原点を学び、チャレンジを広げてきた。
高3の夏まで国公立大を目指していた自分に、突然生まれた芸術大学という選択肢
山本さんは、どんな高校時代を過ごしていたんですか?
- 山本
- 香川県の山の中にある、普通の高校に通っていました。高校3年の夏までは、国公立大学に進学するつもりで受験勉強をしていたんです。
デザインに興味はあったのですか?
- 山本
- 勉強のあいまに趣味のような感覚で、文字のフォントデザインを集めた本を本屋で眺めたり、ときどき買ったりしていました。そしたらある日、父からふと「それを本気で学ぼうとは思わないの?」と言われたんです。
お父さんのほうから。
- 山本
- それまで、自分の中には芸術大学に行くという発想はまったく無かったんです。それが突然、親のほうから「学んでもいい」と言ってもらえたことで、「じゃあ、大学を調べてみようかな」と選択肢が生まれたんです。
高3の夏に、ふいに芸術大学が進路先の候補に入ってきたんですね。
- 山本
- 個人的に京都が好きだったので、ネットで『京都 芸術大学』と検索して。オープンキャンパスの時期はもう過ぎていたのですが、母と大学に行かせてもらって、少し見学をさせてもらいました。そこでギャルリ・オーブを見た瞬間に「ここで学びたい」と直感的に思いました。
直感で。
- 山本
- ここで大学生活が送れたら楽しいだろうな、と思ったんです。一緒に来ていた母も「私も学生だったらここに行きたい」と言ってくれて。それが10月くらいの出来事で、受験を決めたのは11月でした。
夏までは国公立大学を受けようと思っていたところから、急展開ですね!
サプライズ企画で学んだ、人の心を動かすよろこび。
クロステックデザインコースを選んだのは、どういう理由から?
- 山本
- はじめは、文字のデザインなどタイポグラフィを学ぶことしか頭になかったんです。その授業を受けられるのはビジュアルコミュニケーションデザインコース(現ビジュアルデザインコース。以下、VD)なので、第一志望はVDを選択して、第二志望をどうするか考えていました。私はものづくりがやりたいわけではないし、絵も描けないので、何でも学べるというクロステックデザインコースを選択しました。できたばかりのコースだったので、あまり情報もなく、卒業生もいなくて、当時はまだ1年生しかいない状態でした。
すごい状況ですよね(笑)
- 山本
- 謎に包まれたコースだと思っていました(笑)。結果としてクロステックデザインコースに合格することができて。何もわからないままで、自分でもびっくりな展開でしたが、入学を決めたんです。
実際に入学してからは、どんな毎日だったんですか?
- 山本
- 1年生の頃は、ほんとうに幅広く、いろんなことを学びました。ビジネス、企画、デザイン、ものづくり、プログラミングなどですね。
すごいですね。そんなに並行して?
- 山本
- 一つひとつを深く学ぶというよりも、楽しく入り口に触れるような感覚でいろいろ体験させてもらいました。その中でも印象的だったのは、企画の授業で出た「同じコースの友だちにクリスマスプレゼントとしてサプライズを企画する」という課題です。
友だちにサプライズを。
- 山本
- 同じコースに韓国からの留学生がいて、その子は1年生が終わったらすぐに兵役制度で母国に帰らなくてはいけなかったので、応援メッセージを贈るという企画を考えました。彼は日本で学生生活をしているので、家族に会えなくて寂しいだろうなと思って、韓国の家族からメッセージをもらったりして、準備しました。
すごい!韓国のご家族にも本人に内緒で連絡を取ったんですか?
- 山本
- はい。それから、彼のお兄さんは日本で働いていたので、サプライズの実行の日にキャンパスまで来てもらって、同期からのメッセージ入りプレゼントを渡してもらったんです。その子も泣いていたし、お兄さんも泣いて、企画した自分たちも泣いてしまって。
最高のサプライズですね。
- 山本
- 企画を始めてからプレゼントを渡すまでの流れを撮影して、発表会のようなかたちでプレゼンして映像を流したのですけど、そのときも同じコースの子がみんな泣いて、感動してくれました。自分にとってそれがすごく大きくて、企画の根本にある「人を喜ばせる」「人の心を動かす」ことを学んだ経験でした。
素晴らしい経験です。授業の課題という範囲を超えているような気もするのですが、どうしてここまでサプライズ企画をやり切れたのでしょうか?
- 山本
- 留学生の子と仲が良かったので思い入れもありましたし、「みんなでやろう」というグループの団結力も強かったからかなと思います。
みんなの想いが乗っかった企画ですね。
- 山本
- この経験を通して、私は「企画をやろう」と思って。2年生からは興味のある分野を絞って深めていくので、企画の授業をどんどん取っていきました。幅広い分野に触れた中で、自分が一番「楽しいな」という感覚になれたのが、企画でした。
200人のリサーチ、50人の前でプレゼン。
企画への熱意が、次のチャンスを運んでくれた。
2年生から企画の授業を取っていって、例えばどんなことをしたのか教えてもらえますか?
- 山本
- 2年生のタイミングで、コロナ禍になってしまって。企画の授業は個人よりもグループワークが多いので、オンライン上でしかグループワークができない制約もありながら、前期・後期を通して同じプロジェクトをやるので、半年ほど同じメンバーと議論しながらプロジェクトを進めていきました。
コロナ禍でもプロジェクトを動かしていたんですね。
- 山本
- いろいろな価値観を持ったメンバーが集まって一つのプロジェクトをつくり上げるって、簡単なことではなくて。どうすればコミュニケーションがうまく取れるのか、チームで物事を決めていけるのか、いろんなことを考えながら社会人に向けて大事なことを学んだ時期だったと思います。
1年生では企画の楽しさを知った一方で、2年生では大変さも見えてきたんですね。
- 山本
- 3年生では、同じコース内でのグループワークではなくて、大学と企業がコラボして、「企業の抱える課題を学生が解決する」という授業に参加しました。私は消毒液をつくっている企業の課題を担当させてもらい、コロナ禍での制限が緩和されてきて消毒液を使う頻度が減ってきた時期に、「消毒液を使ってもらうにはどうしたら良いか」という課題を解決するための企画を考えました。
企業の方に見てもらうものなので、しっかりした内容が求められたのですね。
- 山本
- そうなんです。最初は「消毒液をどのくらいの人が、どれだけ使っているのか」というリサーチから始めました。はじめ調査したのが20人くらいだったのですが、先生から「これだと少ないね。100人くらいの調査結果が必要だよ」とアドバイスをいただいて。その次の日に200人リサーチしました。
200人も!しかも翌日すぐ行動しているのがすごいです。
- 山本
- 午前中から15時くらいまで、ずっとキャンパスの入り口付近にいて定点観測しました。友だちにも協力してもらって、3人がかりでリサーチして。その熱意が先生にも伝わったのか、企業へのプレゼンのOKが出て。最終プレゼンは対面で行いましたが、オンラインで参加された企業の方と、授業を受けている学生と、発表を見に来られた先生方を合わせると50人以上の前でやり遂げました。
すごい。大プレゼンです。
- 山本
- その授業を担当されていた先生に、企画の立ち上げからプレゼンまでの流れを見てもらえて、それがきっかけで先生のプロジェクトにも参加させてもらうようになりました。「こんなプロジェクトあるけど、来る?」と声をかけてもらい、天草や青森へ同行してワークショップをしたり。
自分のがんばりで、チャンスを掴んだのですね。
- 山本
- そういう実感が持てた経験でした。先生にはそれからお世話になって、ワークショップやフィールドリサーチのお手伝いなど、いろんな経験させていただきました。濃い1年でしたね。
相手のためになることと、自分のしたいことを、どうつなげるか。
山本さんの中で、自分なりの企画の立て方ってあるんでしょうか?
- 山本
- シンプルだと思うんですけど、企画を届けたい相手を具体的に考えることです。その人が好きなことや必要なことを考えたり直接聞いたりして、まず知るのを大事にしています。そして、それだけでなく「私がしたいこと」も考えます。
自分がしたいことも。
- 山本
- はい。自分のしたいこととその人をつなげるにはどうしたらいいかを考えて、「これならお互いにやりたい企画になりそう」と思えるところまで試行錯誤します。相手にも必要だし、自分もやりたいこと、需要と供給が合うかどうかを考えていますね。
「自分がやりたいこと」は、いつも出てくるものなんでしょうか?
- 山本
- 大学時代の企画は、たとえばネーミングから思いついて「ネームインパクト強いな」と思ったものに「これってどういう商品や企画かな?」と逆算して具体化していく試みもしていました。卒業制作でも、『価値貫』というお寿司をモチーフにしたゲームをつくって、「価値観の多様性」をお互いに感じてもらえるような体験をめざしました。
面白いですね。価値観の“観”が、一貫二貫の“貫”に。
- 山本
- この大学で、ほんとうにいろんな考えを持った人に出会って、グループワークも経験して、さまざまな価値観にふれたからこそ、生まれた企画だと思います。「こうあるべき」じゃなくて、「こういう考えもあるんだ」と違いを楽しめたらなと。
何色でもなかったからこそ、新しいチャレンジを広げていける。
山本さんは今、シャープで活躍されています。入社のきっかけを教えてもらえますか?
- 山本
- 3年の後期に入ったゼミが、すごく就職活動に力を入れているところでした。先生は広告代理店出身の方で、はじめは私も広告代理店に行くつもりで就活をしていたのですが、なかなか結果が出ず、「どこか合わないのかな?」と感じていて。そんな時期、先生から「広告代理店はクライアントのオーダーにすぐ応えるスピードが必要。真梨菜はじっくり考えて質のいいものを出すのが得意だから、メーカーの方がいいんじゃない?」とアドバイスをいただいて。そこからメーカーに目を向け始めたときに、ちょうどシャープの説明会がクロステックデザインコース内で開かれることになって、参加しました。そのとき、事業説明をしてくれた方が今の部署の上司です。
すごいご縁です。ゼミの先生も、山本さんの特性を見極めたうえでアドバイスをくれて、それがきっかけになったのですね。
- 山本
- ほんとうに、いいご縁をいただいたなと思っています。それまで私は「シャープ」と聞くと、生活家電をつくっている会社というイメージが強かったのですが、新規事業として、女性の健康課題の解消につなげる商品を開発する「フェムテック事業」に取り組んでいると知って、ここなら自分の体験も活かしながら新しいことに挑戦できそうだと興味が湧きました。
いま、実際にその新規事業に携わっているそうですね。
- 山本
- はい。新規ヘルスケアプロジェクトチームというところで主に2つの事業に関わっています。一つはフェムテック事業で、静岡県浜松市をはじめとする自治体と連携して実証実験をしながら、公共施設などで誰もが安心して使える生理用品を届けるしくみづくりを進めています。
まさに、説明会で興味を惹かれたというフェムテック事業のメンバーに。
- 山本
- そしてもう一つは、『bitescan』という「噛む回数」をはかるデバイスについての商品企画です。よく噛むことは、からだにいいと言われていますが、実際どれくらい噛んでいるのか、なかなかわからないですよね。実は、弥生時代の人は1日3000回噛んでいたという推計があるのですが、現代は食べものが何でも柔らかく食べやすく加工されているので、1日600回にまで噛む回数が減っているという研究結果もあります。
えっ!?そんなに違うんですか?
- 山本
- 大学教授と連携して食育プログラムを実施し、「よく噛んで食べることの大切さ」を伝えるためのプロジェクトにも関わっています。
社会人になった自分がシャープで新規事業のプロジェクトに関わっているなんて、高校3年生の頃の山本さんが知ったら驚くかもしれませんね。
- 山本
- 私の芸大のイメージは、“何か色を持っている人”が行く場所でした。だから、私には得意なことも何もないけど大丈夫なのかな?と思っていたんです。でも逆に、何もないからこそいろいろなことを吸収できたし、何色でもない自分でもいいんだなと思えたのは大きかったですね。経験を積むと考えもアイデアも出てくるので、いろんなことを経験するって大事だなと肌で感じた4年間でした。
素敵なお話を、ありがとうございました!
取材・記事|久岡 崇裕(株式会社parks)
- 卒業年度・学科
- 2023年
プロダクトデザイン学科 卒業
- 出身高校
- 香川県立高松西高校
- プロフィール
- 在学中から江崎グリコとのコラボプロジェクトなど企業との連携企画にも積極的に参加し、 優秀学生賞を受賞。現在はシャープで、地域と協働して進めるフェムテック事業や“噛む回 数”を計測する『bitescan』などの新規プロジェクトに携わる。
作品