SPECIAL INTERVIEW

グローバル・ゼミ ゲスト講師 ヒーマン・チョン メッセージ
SPECIAL INTERVIEW

Heman Chong

ヒーマン・チョン

ヒーマン・チョン

作品、それ自体が持つ力。その作品を、世界へ伝えていく力。

作品をつくる力と、伝える力を、同時に鍛え上げる。

アーティストに一番必要なことは、作品自体が強いものであること。もうひとつ重要なのが、その作品をどのように人に伝えるのかというストーリーテリングの力だと考えています。現代アートの作家であっても、昨今はメディエイターとしてのスキルが求められ、InstagramやFacebookなどのソーシャルメディアを駆使して、自分の考えや作品を他者に伝えていくことが大切なのです。

作品を伝える力を磨くために効果的な方法のひとつが、ショートストーリーをたくさん読むことです。アーティストによって書かれたもの、アーティストについて書かれたもの、様々なストーリーにふれて、自分自身のストーリーを構築してほしいと思います。もちろん、いくらパッケージが美しいクッキー箱があっても、中身のクッキーがおいしくなければ意味がないように、やはり一番大切なのは、自分のつくる作品が強固なものであることです。

グローバル・ゼミに参加する皆さんには、2年間を通して、お互いの考え方や作品を批評したり、批評されたりしながら、自分の作品をつくる力と、その作品を他者に伝える力を同時に鍛え上げてほしいと思います。

本から言葉を抽出し、新しい作品をつくる。

このゼミは、世界のプロフェッショナルたちと一緒に、プラクティカルな課題や議題を通して力を養っていく場です。私自身も、教師として一方通行で教えるのではなく、一人の学生としてお互いに学んでいきたいという気持ちで、2週間の集中ゼミに臨みました。

大切にしたのは、「作品を一緒につくる」ことでした。座学によるレクチャーは、YouTubeなどの動画サイトでも観ることができます。ここでは、より実践的に、どのように作品をつくるのかというプロセスを、シチュエーションを共有しながら学びたいと考えました。

アートメイキングは手を使うだけでなく、精神と頭脳をフルに働かせるものです。特にアーティストにとっては、手仕事と同時に、自分の身体の中にある記憶(=ボディメモリ)を使って、何かを考えることが大切だと思います。そこでは身体の中から出てくるものを言語化する作業が求められます。

今回、私たちは言葉を使った作品づくりに取り組みました。ゼミが始まると、まずみんなで図書館に行き、収蔵されている膨大な書籍の中から本を選び、さらにその中から言葉を抽出してコラージュし、新しい本をつくり上げていきました。このプロセスを通して、ノベリストやアーティストがどのように作品をつくっているかの過程を掴むことができ、テクニックと同時にイメージを習得していくような効果があると考えています。

世界の多様さにふれて、豊かな人生を歩んでほしい。

本から言葉を抜き出すだけ、と捉えると、この課題は一見シンプルなものに見えるかもしれません。しかしその内容としては、かなり複雑な要求をしていると思います。5人のゼミ生にとっては、おそらく初めての経験で、競泳用の深いプールで一から泳ぎを習おうとしているような感覚があるのではないでしょうか。

どのような言葉を本から集め、どのように再構築するのか。この課題は、一人ひとりのキャラクターや物の見方を浮かび上がらせてくれます。私自身にとっても、若い作家たちの制作の過程にふれながら対話を重ねていくことには大きな収穫があり、相互に学び合う場になっています。

片岡真実先生が私にこのゼミのオファーをくれたとき、こういう講座をしてほしいという具体的な指示はありませんでした。10年来の信頼関係のもとで、ゼミの内容については私に委ねてくれたのです。これからもこのキャンパスを訪れる作家やキュレーターたちが、それぞれ独自のやり方で、多様なアプローチを試みると思います。学生たちには、それを集約して、自分の血肉に変えていく力が求められています。そしてその力を、卒業してからも磨き続けてもらいたいと思います。たくさん旅行をして、多様な世界の中で、物事に対する見方を養ってほしい。こうした経験は、作家としての基礎力を押し上げるだけでなく、自らの人生を豊かにしてくれるはずですから。

ヒーマン・チョン
アーティスト|シンガポール ヒーマン・チョン Heman Chong

イメージ、パフォーマンス、シチュエーション、ライティングなどのメディアを融合させるコンセプチュアル・アーティスト。ロックバンド美術館(上海)、サウスロンドンギャラリー、アートソンジェセンター(ソウル)での個展の他、「未読本のライブラリ−」プロジェクトや小説執筆など活動は多岐にわたる。
《近代世界における日々の生活、今日のアーティストの役割とは、抗議、親交》 2005年|香水瓶4本、書籍4冊のタイトルの連鎖から意味を想像する。

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