卒業生紹介
京都芸術大学を卒業し、活躍している先輩を紹介します。
新里小春さん
株式会社 土屋鞄製造所 ランドセル商品企画自分のよさを、信じてもらいたい。
誰かが誇りを纏えるデザインを。
絶対にここで学びたい。ファッションを通して、ちょっとでも世界が変わるんじゃないかと思えた。
いつ頃、ファッションやデザインの世界に興味をもったのか、教えてもらえますか。
- 新里
- 小学4年生のときにはもう、ファッションデザイナーになりたいと思っていました。それで夢のために中学では美術部に入ったり、高校もプレゼンや商品開発を経験できるコースに入ったりして。大学も、絶対ファッション系がいいと決めて探していました。
かなり早い段階から。
- 新里
- そうなんです。最初は「自分の好きな服をつくりたい」という理由でした。でも高校2年生のときに、ファッションの環境問題を知る機会があって、「ただ好きな服をつくるだけじゃなくて、ファッションで社会問題を解決するようなことができたらいいな」と思うようになりました。
ファッションの環境問題というと、たとえば大量生産や大量廃棄が思い浮かびます。
- 新里
- 私が高校生の頃ってちょうど、環境に配慮したグリーンファッションが広がり始めた時期でした。いろいろな大学や専門学校のオープンキャンパスに行くなかで、京都芸術大学がサステナビリティや社会問題の解決に力を入れていて、「もうここしかない」と。
空間演出デザイン学科のオープンキャンパスでは、どんなことを話したんですか?
- 新里
- まずはじめに、「ファッションってなんだと思いますか?」と問われて。
そんな問いかけが。
- 新里
- 私は、服をつくるとか、好きな服を着るとか、ファッションってそういうことかなと思っていたら、「スタバを持って歩くのもファッションだし、おしゃれなピクニックをするのも、パン屋さんで買ったフランスパンを紙袋に入れて持ち歩くのも、ライフスタイルを含めて全部がファッションなんだよ」って言われて。
全部がファッション。
- 新里
- そして、「みなさんは自分がつくりたい服をつくるだけじゃなくて、もっと身の回りのことに関心をもってください」という話がありました。世界にはいろんな問題が起こっていて、環境以外にも、ジェンダーや、障害や、大きな声で語られていないことも、学生だからこそ突き詰めて研究できるよ、と。その言葉が当時の自分にすごく響いたんです。
環境問題だけじゃなく、もっといろんな問題があるんだなと。
- 新里
- はい。私が問題を見つけて考えていくことで、ちょっとでも世界が変わるんじゃないかっていう気がして、絶対ここがいい、ここにいる先生に教わりたいって思ったんです。
出会うべくして出会ったという感じですね。そこからは迷うことはなく?
- 新里
- もう一本勝負でした。夏のAO入試(現・総合型選抜1期 体験授業型)で空間演出デザイン学科を受験しました。
古いものは、新しい。価値観がまるごと入れ替わるような、伝統工芸との出会い。
子どもの頃からファッションに興味があって、高校でもいろんなことを考えたり、つくったりしてきたと思いますが、大学に入ってから何か変化はありましたか?
- 新里
- 変わりました。いちばん変わったのは、私自身の価値観ですね。
価値観が変わった?
- 新里
- 小学生のときから毎月ファッション雑誌を買って、ずっと新しいトレンドを追いかける感覚で服を見てきました。でも、大学に入った4月から卒業する3月まで「KYOTO T5」の活動に参加して、伝統工芸にふれる機会が増えたことで価値観が大きく変わりました。
4年間ずっとT5の活動を!
- 新里
- 授業にT5の方がアシスタントとして来てくださって、「こんなプロジェクトがあるよ」と、友人と一緒に誘ってもらったんです。体験に行って気がついたら卒業までいました(笑)
T5に参加することで、どんな変化がありましたか?
- 新里
- KYOTO T5には「OLD IS NEW=古いものは新しい」というテーマがあって、活動をはじめてから、古いものってかっこいい、価値のあるものなんだと感じるようになりました。
OLD IS NEW、いい言葉ですね。
- 新里
- それまでは新しい服や流行りのものが好きだったんですが、トレンドに左右されないベーシックなアイテムを選ぶようになったり、本当に、価値観が丸ごと変わったなって思います。
舌で工芸を楽しむ。アイスクリームスプーンを通して、職人さんたちの技や人柄に触れてもらう体験を。
T5のなかでも特に印象に残っている活動はありますか?
- 新里
- いろいろなことを経験したんですけど、たとえば、アイスクリームスプーンを題材にした『ICE CREAM GIFT』という企画がありました。
アイスクリームスプーン?
- 新里
- スーパーやコンビニでもらえるあの木のスプーンを、いろんな伝統工芸の職人さんに、同じ形、同じ大きさで、それぞれ漆や石や金属など、違う素材でつくっていただいて、「舌で工芸を楽しむ」「生活の身近なところから工芸を感じてもらう」という試みです。
おもしろいですね。
- 新里
- でもはじめは、わざわざお金を払って買う意味がなかなか伝わらなくて、購入につながりませんでした。
そうか、本来は無料でもらえるものですもんね。
- 新里
- そこで、実際に使ってもらう場をつくろうと考えて、FabCafe KYOTOを会場にみんなでアイスを食べるイベントを企画したんです。 スプーンを制作してくださった職人さんたちをお呼びして、つくるうえでこんなところが難しかったとか、お互いの技術のここがすごいとか、対談をしていただいて。参加者には実際にアイスを食べながら話を聞いてもらって、食べ物を通じて工芸との距離をもっと近づけよう考えました。
体験そのものをつくったんですね。
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- 新里
- 職人さんって、寡黙で近寄りがたいイメージがあると思うんですが、実際に話すと親戚のおじいちゃんみたいに温かくて。その人柄や背景を知ったうえで使うスプーンには、無料でもらえるものとは違う価値があると感じてもらえたと思います。 イベントは予想以上に好評で、会場がいっぱいになりました。はじめは人が来ないんじゃないかと心配していた先生も「来年またやろう」って(笑)
すごい、大成功だったんですね。
- 新里
- はい。この経験を通して、自分は一人で完結する制作よりも、人と関わりながら一緒に物事をつくっていくことが好きなんだと気づきました。その感覚は、学科の制作にも大きく影響しています。
工芸のかっこよさを、職人さん自身にわかってもらいたい。
4年間ずっとKYOTO T5の活動を続けられた理由は、何だったのでしょうか?
- 新里
- いちばんのモチベーションは、職人さんが喜んでくださることでした。
喜んでくれること。
- 新里
- 何十年も伝統工芸と向き合ってきた職人さんにとって、私たち学生と関わる期間はほんのわずかです。私がたった4年間でさえ続けられないのは、職人さんに申し訳ないなという気持ちがありました。
すごく責任感がありますね。
- 新里
- 私の在学中にも、閉業や廃業をされる職人さんの姿を目の当たりにしました。職人さんたちにお話を聞きに行っても、「こんなのがいいの?」「今どき興味をもたれないよ」「もう売れないけど、欲しいって言ってくれる人が少しはいるから続けているだけなんだ」というような声を耳にしました。 でも、職人さんたちの技術って本当に素晴らしいし、工芸はすごくかっこいい。私はそれを、職人さん自身にわかってほしいと思ったんです。
その気持ちが原動力に。
- 新里
- はい。そのためにはT5として結果を出さないと、わかってもらえないよなって。今考えたら荷が重いですよね(笑)。でもほんとに、職人さんに喜んでもらいたいって、それで続けることができました。
すぐにパソコンで調べようとせず、自分の足を使って話を聞きに行く。
空間演出デザイン学科では、どんな制作に取り組まれたのですか?
- 新里
- 環境問題にはずっと関心をもっていました。たとえば、カトラリーを扱う授業では、ちょうどプラスチックストローが紙に置き換わり始めた時期で、私はあえて「プラスチックのストロー」を使った作品をつくりました。
時代の流れとは、逆の選択を?
- 新里
- 「プラスチックは環境に悪いから紙にします」っていう流れに疑問をもったんです。「紙ってことは木を切るんじゃないか」という疑問から入って、実際にストローを製造されている会社にアポイントをとって、お話を聞きに行きました。
すごい行動力ですね。自分からインタビューの申し込みを!?
- 新里
- 空間演出デザイン学科は「パソコンで調べるな」「人に聞きに行け」というのがモットーで、みんなインタビューしていましたね。それでお話を聞きにいったら、プラスチックストローはリサイクルすれば半永久的に使えるものだから、紙よりも環境にいい素材なんだよって教えていただいて。
長い視点で見ると、違う答えが見えてくる。
- 新里
- そうなんです。何年か前にも同じ流れがあって、結局またプラスチックに戻った、という話も印象に残っています。 その話を聞いて、「プラスチックストローの良さをどう伝えるか」を考え、ストローを細かく刻んで編み込み、リュックサックを制作しました。
ストローでリュックサックを。おもしろいなぁ。
- 新里
- 制作をするうえで、「環境にいいから使ってほしい」ではなくて、「かわいいから使ってもらう」。その結果、実は環境にもよかった、という順番のほうがいいと考えたんです。
たしかに、環境のためにこっちを使ってください、という伝え方が先に来ると、長続きするのが難しそうです。
- 新里
- 完成した作品を見たストロー会社の方が、「自分たちの仕事に誇りをもてた」と言ってくださって。今もオフィスに飾っていただいています。
会社に大切に飾ってもらえるって、すごい。ストロー会社の方も、すごく嬉しかったんでしょうね。
- 新里
- T5の職人さんとの関係性とも通じるところがあるなと思いました。
これは、いつ頃の課題だったんですか?
- 新里
- 2年生になったばかりの頃ですね。1年生では服のつくり方や基礎的なことを学んで、本格的に自分で課題を見つけて制作したのがストローのリュックでした。
職人さんたちの“年季”をテキスタイルに宿す。4年間の関わりを活かしてつくり上げた、卒業制作。
卒業制作では、どんなことを?
- 新里
- KYOTO T5と空間演出デザイン学科で学んできたことの集大成として、伝統工芸と向き合いました。ひとつのものをつくるというより、今まで関係性を築いてきた職人さんたちみんなと一緒にできる企画を考えたんです。
どんな企画だったんですか?
- 新里
- 白い布をもって、職人さんそれぞれの工房を訪ねて回りました。そして、「いちばん汚れるところに置いてください」とお願いしたんです。
いちばん汚れるところに?
- 新里
- 染め物の職人さんなら染料が飛ぶ場所、蝋燭の職人さんなら蝋が垂れる場所、石の職人さんなら石を削る作業のそば。制作の過程で付着した原料や痕跡そのものを、テキスタイルの柄にしようと考えました。
へぇ!柄として。おもしろいですね。
- 新里
- 合計8人の職人さんにご協力いただいて、数ヶ月後にまた布を回収しに行って、完成したテキスタイルをモデルさんに着用してもらい、それぞれの工房で写真と映像を撮らせていただきました。 ただ布を汚したという印象にならないように、『nenki』というブランド名でタグもデザインしました。
nenki=年季、ですか。
- 新里
- はい。「年季が入った」というと、現代の解釈としては古びていたり汚れていたり、ちょっとマイナスな印象がありますよね。でも、江戸時代には、職人さんの熟練した技を称える褒め言葉として使われていたそうです。時間を重ねることで生まれる価値を、肯定的に表現したいと思いました。
4年間の関係性があったからこそ、実現できた制作かもしれませんね。
- 新里
- そう思います。職人さんたちも快く引き受けてくださって、卒業制作を通して、さらにいい関係を築くことができました。
デザインで、誰かの価値観やものづくりの価値を肯定したい。
土屋鞄製造所に就職されるまで、就職活動はどういうふうに進められていたんですか。
- 新里
- 実は、なかなか内定が出なくて……。原因は、嘘がつけなかったことだと思います(笑)
嘘がつけない?
- 新里
- その会社を心から志望していないことが、伝わってしまうんです。「私」ではなく、「条件に合う人材」を探しているんでしょ、と感じてしまって。
入りたいと本気で思える会社に出会えなかったんですね。
- 新里
- もともと子どもが好きなので、子ども服のメーカーを見ていたんですけど、T5でお世話になっていた先生に相談すると、「ランドセルや遊具の会社もいいんじゃない?」とアドバイスをもらいました。
そこから、土屋鞄へ。
- 新里
- はい。土屋鞄の面接では志望理由も聞かれなくて、はじめに、「小さいときから変わらず好きなものはなんですか?」って質問されたんです。
へぇ!
- 新里
- 2次、3次面接でも、私の人生にまるごとフォーカスしてお話を聞いていただいて。その中で内定が出ないということもお話ししたら、会社を調べる前にもっと自分のことを知った方がいいよと言われたんです。生まれた時からのことを全部振り返っていったら、これだけは譲れないっていう大事にしたい軸が浮かび上がってくると思うからって。
素敵な会社ですね。
- 新里
- 全部洗い出してみると、やっぱり自分の軸に当てはまるのは土屋鞄しかないなと思って、途中まで選考を受けていた会社を全部辞退しました。きっと周りに怒られるので、そのときは誰にも言わずに……(笑)
新里さんのなかに残ったのは、どんな軸だったんですか?
- 新里
- 最初は新卒から企画ができるとか、そういう絞り込み方をしていたんですけど、結局私が大事にしたかったのは、「人と一緒につくり上げること」と、「ものづくりを通して社会問題の解決に関わること」でした。 もうひとつ、幼少期の環境が大人になってからの価値観に大きく影響してくるんじゃないかと感じていて、「子どもたちの価値観を肯定できるデザインをしたい」という考えも自分にとって大切な軸でした。
子どもの価値観を肯定できるデザインを。
- 新里
- 子どもにとって、ランドセルを選ぶのは、初めて「これがいい」と自分で決める大きな体験。デザインを通して「自分の好きを大切にしてほしい」っていうことを伝えたいなと。
子どもにとって、一生ものの経験ですよね。
- 新里
- そうなんです。それから土屋鞄は日本のものづくりを世界に広めるということを掲げていて、大学時代に自分がやってきたこととも通じるなと。
ずっとブレてないですね。
- 新里
- 今も、自分のデザインが、誰かの人生にちょっとでも影響を与えられたらいいなって思いますし、私が土屋鞄でものづくりに関わることで、京都の職人さんたちや、日本全体のものづくり全体がちょっとでもいい方向へ向かってくれたらいいなと思っていて、そのためにできることを一歩ずつやっていきたいです。
デザインで、誰かの価値観やものづくりの価値を肯定したい。
今日改めて、大学で過ごした時間を振り返ってもらって、どんな4年間でしたか。
- 新里
- もし違う学校に行っていたら、ファッションに対する価値観がもっと狭いまま生きていたと思うんです。古いものの良さや、ものづくりが衰退している現実も知らないままいたのかなと。この大学に入ったからこそ、視野を広げられたのはいちばん大きいと思います。
お話を聞いていると、ほんとに広い視野でファッションを捉えているなと感じます。
- 新里
- 他の学科との関わりも大きかったですね。私はいろんな人に助けてもらっていて、自分は写真を撮れないけど、写真をできる人に頼もうとか、自分につくれないものは職人さんに頼みにいこうとか、ひとりで完結させずに、周りの人を巻き込めるようになりました。 高校までは、宿題は一人でやらきゃいけないものだと思っていたのが、この大学では、自分の得意なことを伸ばして、できないことは人に頼ればいい。いちばん学んだのはそういうことでしたね。
最後に、これから進路を決める高校生に向けて、メッセージをいただけますか。
- 新里
- ネットやAIに頼る前に、人に会いに行ってほしいです。人に会うと、その人の温度感ごと伝わってきて、自分ごととして考えられるようになります。そのご縁は将来にどんどんつながっていくものだから、大事にしてほしいなって思います。
素晴らしいお話をありがとうございました!
- 卒業年度・学科
- 2025年
空間演出デザイン学科 卒業
- 出身高校
- 兵庫県立川西北陵高校
- プロフィール
- 在学中、KYOTO T5に参加し、伝統工芸に携わる職人たちと4年間活動を続ける。卒業制作『nenki』では奨励賞を受賞。2025年、土屋鞄製造所に就職し、商品企画に携わりながら、子どもたちの可能性や日本のものづくりと向き合い続けている。
作品
