Interview #1 学校法人瓜生山学園 理事長 德山 豊

  • Interview

理事長の仕事とは、人との繋がりを学内に持ち込むこと。

創設者・德山詳直の後を継ぎ、2014年に理事長に就任した德山豊。創立50周年を迎えるにあたり、彼は学園の新しいスローガンを打ち出した。そこに込められた想いのすべてを語ってもらった。

京都芸術大学の正門大階段にて。

2027 年の創立50 周年に向けて、「世界中の創造力を解放する。」という新しいスローガンを掲げられました。この言葉に込めた理事長の想いを教えて下さい。

もともと本学園では、2007年頃から「藝術立国」という言葉を哲学として掲げてきました。創設者が抱いていた“芸術の力で平和を希求する”という想いを表した言葉です。今回、50周年という節目を迎えるにあたり、2代目理事長としてその哲学を自分自身の言葉に置き換えてみてもいいのではないかと考えました。その想いを受け継ぎながらも、現代の若い世代にも響く表現にアップデートしたかったのです。

では、新しく打ち出した「創造力を解放する」とは?

例えば、子供の頃は感じたままをストレートに表現できたのに、今の日本では年齢とともにそれを抑えなければならないような空気がある。そうした環境の中で、萎縮することなく、個人が持つ想像力やインスピレーションをどのように解き放ち、社会に役立てるか。自分の想いを伝え、他者の想いに耳を傾けることで新しいエネルギーが生まれる。これは新しい芸術運動とも言えるもので、つまり、他者の想いを理解しながら自分の想いを形にしていくことが、「世界中の創造力を解放する。」という行為なのです。その根底に欠かせないのは「愛」です。愛は恋愛だけではなく、もっと深い意味での愛。自己への愛、他者への愛、生きとし生けるものすべてを思いやる愛です。他者を思いやる心というのは、芸術には欠かせないものなのです。

茶室「颯々庵」は裏千家第14代家元無限斎(淡々斎)氏の考案により旧三和銀行京都支店ビル内に造られた茶室を、瓜生山キャンパス内に移築したもの。

これからの50年を見据えた時、学園はどのように進化していくのが理想だとお考えですか? そのために理事長が現在、取り組んでいることは何でしょう? 

私の考えは「原点回帰」です。教育の本質は“人間の豊かさを知ること”だと思っています。では、人間にとって豊かさとは何か─それを学生たちと一緒に考えていきたいのです。若い学生の多くは「便利=豊か」と捉えるかもしれません。でも、便利と豊かは同じではないはずです。私たちは便利なものを一方的に学生に与えるのではなく、生きる知恵と力を身につけてほしい。一見無駄に見えることの中にも豊かさが宿っているかもしれない、と柔軟に考えられる人になってほしい。そうした価値観を育むために、深いコミュニケーションを重ねていきたいと思っています。

理事長にとって、良い教育とは何でしょう? 

これは私自身の体験から強く感じていることですが、良い教育とは、一方的に価値観を押し付けないことだと肝に銘じています。昔、私が中学生だった頃、私が描いた絵を美術の先生が笑い、「お前の親父は本当に美大の理事長か?」と言われたことがあります。その絵は正面・左右・上下から見た風景を一枚に描いた絵だったのですが、先生に「お前は落ち着きがない。ウロウロしながら描いたのか」と言われ、その言葉にショックを受け、すっかり美術が嫌いになってしまった過去があります。まだ中学生の段階で、私は自分から美術に対するシャッターを閉めてしまった。この経験は私の教育観に大きく影響しています。教師の言葉は学生の才能の芽をいとも簡単に摘んでしまうもの。我々は学生一人ひとりが自由に「考える力」を身につけることを手助けするサポーター。仮に、恐ろしい芸術のジャングルに1人放り出されたとしても、自分の力で考え、生き抜く力を身につけるためには、まず学びを嫌いにならないこと。さらに言えば、自分がいない未来まで想像し、その未来のために尽力できる創造力豊かな人を育てることだと思っています。

京都芸術劇場「春秋座」は、2001年に三代目市川猿之助(故・二代目市川猿翁)の設計監修により開設された、日本初の大学運営による本格的な劇場。

理事長の仕事とは、一言で言うと何でしょう?

「人と繋がること」、いや「人と人が繋がる機会を学内に持ち込むこと」です。人は、様々な現場で愛と熱意を持って活動しています。そんな人と、ただ作業をしている人とでは滲み出る雰囲気がまったく違うもの。そうした熱意ある人たちと学生が出会えば、学びはもっと広がる。仕事とは、自分の表現をする場所であり、自分の可能性を形にする場所です。そのことに気づける場を作ること。それが私の一番大きな仕事だと考えています。

PROFILE

Yutaka Tokuyama
とくやま・ゆたか/1965年京都府生まれ。89年ボストン大学経営学部卒業。第一勧業銀行を経て92年より学校法人瓜生山学園勤務。2014年より理事長に就任。学校法人東北芸術工科大学副理事長、公益財団法人日本文化藝術財団理事長も務める。

 

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