卒業生紹介
京都芸術大学を卒業し、活躍している先輩を紹介します。


本村玲奈さん
声優声優という世界、演じることの楽しさを、感じ続けていたい。ピュアな情熱を原動力に、すべての壁を越えていく。
内気だったからこそ、演じることに心惹かれた。
いつ頃から、「声優」という職業を志されたんでしょうか?
- 本村
- これには明確なきっかけがあって。TVアニメ『東京喰種トーキョーグール』の主人公の演技を観て、「声優になりたい」と思うようになったんですよ。中学2年生の時でした。
どんなところが刺さったんでしょうか?
- 本村
- 主人公を演じる声優の花江夏樹さんのお芝居に、ものすごく感動したんです。元々演技の世界に興味はあったんですが、声だけでここまで人の心を震わせられるんだと驚いて。この時から一気に「声優」にフォーカスするようになりました。
中学以前から、演じることに興味を持たれていたんですね。
- 本村
- 小さい頃、私はすごく内気な子どもで、友達の輪に自分から入っていけなかったり、自分の居場所を見つけられなかったり、ということがよくあったんです。そんな時に池山田剛先生の『好きです鈴木くん!!』という漫画に出会いました。
どんな内容の漫画なのでしょうか?
- 本村
- お芝居を題材にした漫画で、主人公がすごく内気なキャラクターなんです。
お。本村さんと同じですね。
- 本村
- そうなんです。そんな主人公が、お芝居をする時だけ自分の気持ちを表現できる、という内容で。この漫画を読んで「私も、お芝居を通してなら自分を表現できるんじゃないか」と思うようになったんです。
では元々は、俳優になりたいなという気持ちもあったんでしょうか?
- 本村
- 大学に進学する時点で、夢は声優一本にしぼられていましたね。
あえて道をしぼった理由は?
- 本村
- 確かに声優と俳優は、演じるという意味では同じです。でも私が憧れていたアニメーション声優というのは、職人的な専門技術を要する仕事。だから自分の場合、「声優と俳優どっちも」という感覚ではめざせないな、という予感がありました。
厳しい世界だからこそ、集中しないといけないと。
- 本村
- もちろん俳優として舞台で演じることは今でも好きですし、これからもチャンスがあれば挑戦したいと思っています。ただ進路を決める高校生の段階で、私の中で強烈な優先度を放っていたのは声優という選択肢。絶対に叶えたい夢だったからこそ、今は声優だけをめざすべきだと思ったんです。
「芸術の掛け算」を身につけたくて、大学へ。
養成所や専門学校もある中で、なぜ京都芸術大学を選ばれたんでしょうか?
- 本村
- オープンキャンパスで受けたプレ講義が素晴らしくて。うろ覚えですが「芸術というものは、足し算ではなく掛け算でつくられる」という話を先生がされていたんです。舞台で言えば、俳優の存在だけでなく脚本や美術、照明などの力が掛け合わさって、大きな力を発揮すると。
なるほど。足し算ではなく掛け算。
- 本村
- 当時から、今もですけど、私は自分を凡人だと思っていて。凡人の私が声優という夢を叶えるにはどうしたらいいんだろうと考えながら進学先を探していたんです。それでこの掛け算の話を聞いた時に「ああ、これだ」と思って。
どんなところが、しっくりきたんでしょうか?
- 本村
- 演じることに加えて脚本を書くことや、絵を描くことが好きだったので。一つひとつは凡庸な才能かもしれないけど、この大学でいろんな力を伸ばして、それを自分の中で掛け合わせていけば、夢に手が届く気がしたんです。
高校生の段階で、すごく冷静な分析をされていたんですね!
- 本村
- その分析結果として、こういうスキルを学べそう!というよりは、人として育つことができそうな場所だ、と思って京都芸術大学を選んだという感じですね。
入学してからも、その「掛け算」を意識することは多かったですか?
- 本村
- まず舞台芸術学科の仲間たちが、掛け算要素の集まりですよね。私と同じで声優を志望している子もいれば、俳優志望の子、脚本家、舞台監督などなど……。お芝居というアウトプットはひとつなのに、こんなにも違うアプローチがあるんだと、たくさんの刺激をもらっていました。
本村さん自身の中にあった、「掛け算の要素」を増やしたり、高めたりするためにしていたことはありますか?
- 本村
- 他学科の授業にも積極的に出ていましたね。文芸表現学科とか、キャラクターデザイン学科とか。空きコマはほとんど他学科の授業を聴講しに行っていた気がします。
あえて他の分野のことを知りに。
- 本村
- そうですね。この時の経験が、声優になった今もすごく生きていて。他の分野の考え方を、自分のフィールドに引き込む力がついたというか。「ここは違うな」「ここは一緒だ」という相違点と共通点を見つけて、全部自分の演技に生かしていけるようになった気がします。
どんな時にそれを感じます?
- 本村
- セリフが当てられた1コマの映像を見ながら、アニメーターさんや演出家の方がそこに込めた想いや意図を想像して、演技を深められたときですね。作り手の考え方を演技に込められるのは、大学での学びがあったからこそ。こういった「演技と掛け算で向き合う姿勢」は、自分の強みと言えるんじゃないかなと、最近思っています。
背中を押してくれた、「絶対なれる」という言葉。
授業以外で、心に残っている出来事はありますか?
- 本村
- 野外能舞台で行った三島由紀夫の『葵上』公演ですね。私は、主人公の若林光に恋焦がれるあまり、生き霊となってしまう六条康子を演じました。
光の妻・葵を祟り殺す、難しい役どころですよね……。
- 本村
- もうとてつもなく難しくて。自分の未熟さに沢山悩んで、のたうちまわりながら向き合ったからこそ、心に残っているんです。
どういう点が特に難しかったのでしょうか?
- 本村
- 生き霊になってしまうほどの恋をしている康子の人生を、私の経験値では埋めきれなくて。「ああ、なんて自分はちっぽけなんだ!」と、挫折感を味わいました。でも同時に気づいたこと、得られたものもあって。
得られたものというと?
- 本村
- 悔しさが大きすぎたからこそ、これをバネにお芝居を続けていったら、それだけいろんな役を演じられるようになるし、役の人生を描き切れるようになるんだろうなと思えたんですよね。
本当にお芝居が好きじゃないとできない発想ですね。
- 本村
- 好きというか、執着心というか(笑)。できない、悔しい。でもそれって、これから達成できること、到達できるゴールがいっぱいあるってことじゃんと、将来の楽しみを見つけられたような気がしました。
周りからの評価はいかがでしたか?
- 本村
- もちろん、褒めてくれた方もいっぱいいて。中でも心に残っているのが、いつも私を気にかけてくださっていた舞台芸術学科学科長の平井愛子先生からの言葉です。
どんな言葉でしたか?
- 本村
- まずは、「なかなか自分の殻が破れないね」というダメ出し(笑)。その後「玲奈は上手ではないんだけど、血の通った演技ができる役者だから。玲奈なら絶対なれる」と言ってくださったんです。
素敵ですね。すごい愛を感じます。
- 本村
- そうなんです。学生って、先生のダメ出しを鵜呑みにしすぎてしまうと傷ついて自分の個性を無くしてしまいそうになる。ともすれば甘い肯定の言葉しかかけられなくなる。でも平井先生はちゃんとダメ出しはしつつ、信じてるって伝えてくれていて。その正直でまっすぐな信頼が、声優という夢を追い続けるための大きな力になっていました。
唯一無二の感動を、いつか誰かに届けたい。
周囲の支えもあり、卒業前から声優デビューを果たされた本村さん。最近の活動について、教えてください。
- 本村
- 直近だと、サンライズ制作のオリジナルアニメ『前橋ウィッチーズ』で北原キョウカ役を演じさせていただいています。初めての主要キャストに、ワクワクしているところです。
アニメで見習い魔女を演じる声優陣で、アイドル活動にも取り組まれているとか。
- 本村
- 歌は元々好きだったんですが、アイドルになれるとは夢にも思わなかったので、自分の中でもすごく大きな挑戦ですね。
「演じる」ということとはまた違う感覚ですよね?
- 本村
- そうですね。ライブで歌って踊って、お客さんがペンライトを振ってそれに応えてくれて……。これも一種の掛け算の芸術だなと思っていて。私たちとお客さんのエネルギーが掛け合わさって舞台が完成する、という楽しさを感じています。
声優になったからこそ体験できている、新しい感覚ですね。
- 本村
- アイドルに挑戦していることはもちろん、絵を描くことが好きだったり、脚本を書くことに興味があったり。声優になった今も、幅広いクリエイティブ欲求を持っていることが私らしさなのかなと最近思っていて。
大学入学前から、本村さんの中にあった気持ちですもんね。
- 本村
- いつか脚本から主演まで自分でやりきるボイスドラマや、絵本を作ってみたいという思いがあります。趣味で作ったりはするのですが、そういった夢も抑えつけることなく、チャンスがあれば叶えていきたいんです。
夢が広がり続けていますね!
- 本村
- そうやってさまざまな経験をすることが、すべて声優としての成長につながると思っています。いろんな「やってみたい!」を重ねていくことで、唯一無二の声優・本村玲奈になっていきたいですね。
「できない」と諦めることを諦めて、前に進む。
声優として次々話題作に出演し、アイドルなど活動の幅を広げている本村さん。順風満帆に見えますが、悩むことあるんでしょうか?
- 本村
- 悩むこと、課題にぶつかることばっかりです!特に声優になってから感じるのは、自分のマルチタスク能力のなさですかね……。
マルチタスク?
- 本村
- 声優って、単に与えられたセリフを読むだけでなく、尺の中にセリフを収めることや、録音時の立ち回りなど、いろんなことを考えながら仕事をしないといけなくて。
大変そうです……。
- 本村
- ここは何度も練習できない、一発で決めなきゃ。みたいな瞬間も多くて、演技が上手いことは大前提としてその場をすばやく成立させる瞬発力も求められる仕事なんですよね。
なんだか、アスリートの話に聞こえてきました。
- 本村
- そう!まさにアスリートです。しかも周りの先輩方は、とんでもなく演技が上手い方ばかり。私も演技だけに集中できれば、ある程度きちんとやれる自信はあるのですが、他に考えないといけないことがあると途端にダメになってしまうこともあって……。まだまだ成長の余地はあるなと感じています。
難しいなとか、できないなと思うときはどうしているんですか?
- 本村
- そこは、六条康子を演じた時から変わっていなくて、まず「悔しい!」という気持ちに飲み込まれて。
できない!辛い!と。
- 本村
- で、そこから「これからできるようになることが、まだこんなにある!楽しい!」って切り替えて(笑)。
「悔しい!」を「楽しい!」に持っていけるのは、なぜなんでしょう?
- 本村
- 声優という仕事が楽しくて仕方ないから、ずっと続けていきたいから、ということに尽きるかなと思いますね。
声優という仕事の、どんなところに一番の魅力を感じていますか?
- 本村
- そうですね……。生きていれば、それがどれだけ幸せな人生であったとしても、必ずどこかで悲しいこと、腹が立つこと、辛いことに出会うじゃないですか。でも現実世界でそのマイナスな感情を全開にすることって、ほとんどないですよね?
どちらかと言えば、押し殺さないといけない、と思ってしまいます。
- 本村
- でもアニメの中では、キャラクターがマイナスの感情を思い切り表現したり、辛い過去に向き合ったりというシーンが多く描かれます。声優としてその感情を演じると、過去にあった悲しいこととか辛い出来事に折り合いをつけたり、意味を見出して消化できたりする瞬間があるんです。
まさに、幼い頃に本村さんが描かれていた「演じることで自分の気持ちを表に出す」という行為ですよね。
- 本村
- そうなんです。演技を通して自分を表現し、自分の感情と向き合えていることが、今の私には強い支えになっていて。そこから得られる達成感や充足感に包まれるたび、「ああ、お芝居を、一生やめられないな」と思うんです。
やめられないから、できないこともやるしかないと。
- 本村
- 「できない」と言って諦めることを、少し前に諦めました(笑)。私は今後もこうやって声優という仕事、お芝居の世界に魅了され続けていくんだと思います。この世界に居るためならどんな努力もする!という気持ちが、心の中でメラメラと燃え続けているんです。
いいですね。声優、演技への情熱をこれからも熱く燃やし続けてください!この度は、どうもありがとうございました。
取材・記事|久岡 崇裕(株式会社parks)
- 卒業年度・学科
- 舞台芸術学科 卒業
- 出身高校
- 大阪府
- プロフィール
- 在学中、劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』の金本役で声優デビュー。卒業後は『Re:ゼロから始める異世界生活』や『前橋ウィッチーズ』などの話題作に出演。2025年7月放送開始『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』のマリー役で初主役が決定。