2023.05.12
- 展覧会
- 首都圏
神谷徹「息/瞼の裏/なぞる」
2023. 05/09 (火)
2023. 07/08 (土)
12:00
18:00
※日・月・祝日休廊
SCAI THE BATHHOUSE
アクリル絵具による繊細な色のグラデーションが特徴的な神谷徹の絵画は、モチーフをもたず、その表面は刷毛の跡さえ見分け難いほど滑らかです。マットな塗り込みによって光の反射を極力抑えた画面がもたらす色彩の磁場は、展示空間と見る者の意識の両方に静かに作用しているようです。会場の特徴をふんだんに生かした高さ6メートルにおよぶ大作を軸に、約15点の新作絵画が単体、および数点の組み合わせで展示される本展は、パンデミックを経て画家に生まれた一定の視点の変化とともに、彼がこれまで取り組んできた色面構成の展開が結実したものとなっています。
中心となるのは、30センチ四方の絵画モジュール60点から成る大作《joy》(2023年)です。一点一点は独立しながらも、一体となってフォーメーションを形成し、会場の天井高を最大限に利用した展示を構成しています。それぞれのパネルの天地左右や位置関係が流動的であり、絵画という本来強固なメディアの性質に抗する受容的要素を中心に据えた本作は、これまでの実践を踏まえ、さらなる発展を遂げた神谷の新境地を明らかにしています。補色対比をベースとする画面上で、二色が交じり合う中間地点の色合いは、展覧会名にも示唆される通り、どこか身体性にも通ずる感覚を喚起し、洗練された画面の中に潜む異質さを掻き立てているようです。
「息/瞼の裏/なぞる」といった三つの単語の並びは、神谷自身によって選ばれました。始まりも終わりもない自身の制作を止まることのない呼吸=息に重ね、また、画面真ん中のグラデーションの色合いについては、瞼を閉じて手で押さえた時の裏側の感触、そこに走る神経や血肉の存在を見ることに近いのではないかという彼の直観的な感覚が反映されています。さらに、モチーフを描かず色面構成といういわば形式と形状のみに沿った神谷の絵画における、平面を絵具で肉付けする筆の行為を、最後の「なぞる」という言葉が表しています。
作品の支持体はすべてオーダーメイドであり、展示構成の段階から作家によって緻密に計算されています。作品の影が美しく投影される効果を狙い、パネル側面には60度の傾斜がつけられ、壁にかけた際の色の乱反射を防ぐために側面にはグレーを塗るなど、その作品は成り立ちからすでに他者の存在やその視線を多分に含むものでした。加えて、本展では、画家が自身のアトリエの壁面に施しているというグレーの色味を会場の壁面に再現します。制作することに加え、作品を「見る」ことについての画家の意識を反映した実験的な試みです。
作者から離れた自由な絵の姿も見たい、そしてその結果を受け入れたい、と神谷は言います。近年には布張りのパネルだけではなく大理石といった新しい支持体との出会いもありました。自身が設計したものとは違う、思い通りにならないものへの対応を促したこれらの試みもまた、長きにわたって取り組んできた実践の発展へとつながったといえるでしょう。終わりのない制作の過程で、鑑賞者に働きかけ、場を形成する装置としての絵画を追求し続ける神谷徹の新作個展をぜひご高覧ください。
中心となるのは、30センチ四方の絵画モジュール60点から成る大作《joy》(2023年)です。一点一点は独立しながらも、一体となってフォーメーションを形成し、会場の天井高を最大限に利用した展示を構成しています。それぞれのパネルの天地左右や位置関係が流動的であり、絵画という本来強固なメディアの性質に抗する受容的要素を中心に据えた本作は、これまでの実践を踏まえ、さらなる発展を遂げた神谷の新境地を明らかにしています。補色対比をベースとする画面上で、二色が交じり合う中間地点の色合いは、展覧会名にも示唆される通り、どこか身体性にも通ずる感覚を喚起し、洗練された画面の中に潜む異質さを掻き立てているようです。
「息/瞼の裏/なぞる」といった三つの単語の並びは、神谷自身によって選ばれました。始まりも終わりもない自身の制作を止まることのない呼吸=息に重ね、また、画面真ん中のグラデーションの色合いについては、瞼を閉じて手で押さえた時の裏側の感触、そこに走る神経や血肉の存在を見ることに近いのではないかという彼の直観的な感覚が反映されています。さらに、モチーフを描かず色面構成といういわば形式と形状のみに沿った神谷の絵画における、平面を絵具で肉付けする筆の行為を、最後の「なぞる」という言葉が表しています。
作品の支持体はすべてオーダーメイドであり、展示構成の段階から作家によって緻密に計算されています。作品の影が美しく投影される効果を狙い、パネル側面には60度の傾斜がつけられ、壁にかけた際の色の乱反射を防ぐために側面にはグレーを塗るなど、その作品は成り立ちからすでに他者の存在やその視線を多分に含むものでした。加えて、本展では、画家が自身のアトリエの壁面に施しているというグレーの色味を会場の壁面に再現します。制作することに加え、作品を「見る」ことについての画家の意識を反映した実験的な試みです。
作者から離れた自由な絵の姿も見たい、そしてその結果を受け入れたい、と神谷は言います。近年には布張りのパネルだけではなく大理石といった新しい支持体との出会いもありました。自身が設計したものとは違う、思い通りにならないものへの対応を促したこれらの試みもまた、長きにわたって取り組んできた実践の発展へとつながったといえるでしょう。終わりのない制作の過程で、鑑賞者に働きかけ、場を形成する装置としての絵画を追求し続ける神谷徹の新作個展をぜひご高覧ください。
費用 | ― |
---|---|
定員 | ― |
申込方法 | ― |
主催 | ― |
お問合せ | ― |
URL | https://www.scaithebathhouse.com/ja/exhibitions/2023/05/toru_kamiya_breath_behind_shut_eyes_tracing/ |
関連教員 |